2013.07.08

EVバイクレーサーによる未知への新たなチャレンジ!

大会名:2013 Isle of Man TT Races Fuelled by MONSTER ENERGY
カテゴリー:SES TT Zero Challenge
距離:37.73マイル(60.73km)×1周
プラクティス1回目:5月31日(金) 曇りのち晴れ 気温14℃
プラクティス2回目:6月1日(土) 曇りのち晴れ 気温15℃
プラクティス3回目:6月3日(月) 晴れ 気温 21℃
決勝:6月5日(水) 晴れ 気温16.5℃

わずか1.6秒の僅差で、2位表彰台!

 TEAM無限が今年の為に新たに開発したEVバイクレーサー「神電・貳」は、今年5月27日〜6月7日、マン島・TTマウンテンサーキット(公道コース)で行われたマン島TTレースのTT Zero Challengeに 昨年に引き続きジョン・マクギネス選手のライデングで2度目のチャレンジを行いました。しかし、あと一歩届かず、 1位とわずか1.672秒の僅差で昨年に引き続き悔しい2位表彰台でした。

 マン島TTレースは1907年から続く現存する世界最古の公道オートバイレースで、「バイクの聖地」とも呼ばれ、世界中のライダーがこのレースイベントを目指してやってきます。嘗て、日本のバイクメーカーによるマン島レースの数々の輝かしい勝利が、今日の日本のバイクメーカーの世界への急成長の元となったと言っても過言ではありません。
 コースは、1周約60kmの公道を閉鎖して使用する「TTマウンテンサーキット」で、標高差・コーナー数ともに世界随一の難コースとしても知られています。公道レースのため、実際にレコードラインでコースを走れるチャンスはTTウィーク中しかなく、攻略が非常に難しいコースです。

 レース日程は、毎年5月下旬から6月上旬の2週間にかけて行われ、前半はプラクティス(予選も兼ねた練習走行)、後半は1日おきに4日間に渡ってスーパーバイクやスーパースポーツ、サイドカーなど6クラス・9レースの決勝レースが行われます。
 TT Zero Challengeは、地球環境保全や代替エネルギーへの関心の高まりを背景に2009年に開設された、ゼロ・エミッションのレギュレーションを原則とするカテゴリーです。これまで、アメリカ・インド・イギリス・ドイツ・イタリア・マン島など 世界各国からの参戦があり、単なるモータースポーツとしてだけでなく、新たな テクノロジーの革新にも注目が集まるクラスです。

 昨年、初出場で2位表彰台を獲得したTEAM無限は、さらなる飛躍を求めて、車体の軽量化・モーターやバッテリーの軽量化とパワーアップなど約1年をかけて大幅に進化させた全く新しいマシン「神電・貳」を開発しました。日本国内でのテストを重ねたのち、最終テストは、マン島にあるクローズド・サーキットのジャービー・エアフィールドにおいてマクギネス選手によって行い、レースに向けてセッティングを煮詰めました。

5月31日(金)

プラクティス1回目 - 1位
ラップタイム:21分25秒639
平均車速:105.650mph(=170.027km/h)

 マン島はこの時期、日没が21時30分過ぎと夜まで明るいため、プラクティスウィーク中は、学校や仕事が終わったあとの18時にロードクローズし、18時15分から走行開始となります。今年のプラクティスウィーク中は全般に気温が低く、目まぐるしく天候が変わりがちでした。プラクティスウィーク最終日の31日(金)はようやく晴れて万全のコースコンディションで走行できる予定でしたが、コース沿いの住宅火災によって45分遅れの19時00分からプラクティスが始まりました。これにより、プラクティスの最後に走行が設定されていたTT Zero Challengeの走行が実施できるか危ぶまれましたが、コースクローズ(公道閉鎖終了)時刻にギリギリ間に合う20時47分に走行が開始されました。

 TT Zero Challengeは、プラクティスウィークからレースウィークまで最大7回程度・20周以上走れる他のクラスと違い、走行できるチャンスは5月31日(金)、6月1日(土)、3日(月)の3回・3周のみ。それだけに、1回の走行が貴重なデータ収集の機会となります。

 この日 マクギネス選手はスーパーバイクでプラクティス走行したあと、休憩する間もなく神電・貳のレザースーツとヘルメットに着替え、神電・貳で再びTTコースへと戻りました。途中、公式タイミングラップの不調で、マシントラブルかとパドックには不穏な空気が漂うものの、マクギネス選手は21分25秒後、無事に1周を終えてピットロードに戻ってきました。

 プラクティス初日の結果は、TT Zero Challengeの昨年までのラップレコードを更新し、平均車速105.650mph(=170.027km/h)を記録しました。しかし、#1のマイケル・ラッター選手(イギリス)が104.631mph(=168.387km/h)、そして、#2のマーク・ミラー選手(アメリカ)が102.328mph(=164.680km/h)と、昨年の記録を上回っており、気の抜けない展開となりました。

6月1日(土)

プラクティス2回目 - 2位
ラップタイム:21分07秒20
平均車速:107.20mph(=173.521km/h)

 島の一部で降雨があり、全般に晴れたもののウェットパッチも残るコンディションでプラクティスの2回目が始まりました。1日(土)はTTウィーク最初のレースが開催される週末とあって、島中に観戦客が溢れ熱気に包まれました。TT Zero Challengeのプラクティス開始は この日最後の走行となる16時25分。TTコース沿道の観戦客は減ることなく、熱気のなかプラクティスの走行が始まりました。

 マクギネス選手はスーパースポーツのプラクティス走行から着替える時間もなく、そのまま神電・貳に乗り換え、すぐにコースイン。結果的に昨日のタイムを上回る107.20mphを記録しました。しかし、#1ラッター選手もタイムを詰め、神電貳を上回る107.816mphを記録。#1のラッター選手がトップに躍り出ました。

 マン島TTレースのレース形式は、一般的なレースのように予選順にグリッドに付き一斉スタートするマススタート方式ではなく、10秒ごとに1台ずつスタートするタイムトライアル方式です。TT Zero Challengeの場合、予選の順位がレースのスタートに直接影響することはなく、レース中の駆け引きよりも、モーターの出力コントロールや足回りのセッティングが重要なファクターとなります。この日、前日からの変更点としては、トップスピードが伸びる仕様に変更し走行に臨みましたが、さらなるタイムアップを目指して、TEAM無限のエンジニアたちは夜遅くまでデータと睨み合いながら作戦を練りました。

6月3日(月)

プラクティス3回目 - 1位
ラップタイム:20分45秒699
平均車速:109.04mph(=175.483km/h)

 レースウィークに入り、ようやく天候が良くなってきたこの日は、朝からよく晴れた。気温もマン島にしてはぐんぐん上昇し20度を越えてきました。神電・貳は、ほぼ決勝仕様となる状態で最後のプラクティスに臨みました。マクギネス選手はこの日、スーパースポーツ(4周)とスーパーストック(4周)のレースを終えたあとにTT Zero Challengeのプラクティス(1周)、さらに撮影用の走行(1周)含めて実に10周(約600km)の走行をこなしましたが、本当にタフです!

 現地時間15時48分からスタートしたTT Zero Challenge。トップでコースインし、トップでスタート&ゴール地点に戻ってきたマクギネス選手は、エネルギーマネジメントも想定通りでバッテリーを使い切ることができ、その結果21分を切る好タイムを記録し、非公式ながらラップレコードを更新しました。(TTはレース中のラップタイムのみ公式記録として残るため)しかし、2位の#1ラッター選手との差はわずかに16秒であり、レース本番まで気が抜けない展開となりました。

6月5日(水)

決勝 - 2位
ラップタイム:20分40秒133
平均車速:109.527mph(=176.267km/h)

 朝からよく晴れて雲一つない快晴に恵まれたTT Zero Challengeの決勝日。レースは予定通り10時45分からのスタートとなりました。早々にチケットが完売となった満員のグランドスタンドの観客、そして沿道に詰めかけた観客が、独特の高音を奏でるモーター音を聞き逃すまいと静かにスタートを待っていました。

 #3の神電・貳/マクギネス選手は3番目のスタート。従って、#1のラッター選手からは20秒のインターバルを置いてのスタートとなりました。神電・貳の決勝レースの仕様はタイヤを新品にしたのみで、他は変更ありません。

 1周約60kmもあるTTのコースでは、コース上のTV生中継はないため、スタートしたあとはラジオの実況と公式ラップタイミングのモニターで確認しながら約20分後のゴールまで祈る気持ちでジッと待つしかありません。ただ、ラジオ実況でセクター間のタイムが伝えられるので、ライバルチームと終始手に汗握るレース展開であったことが判りました。やがて、神電・貳は、#1のラッター選手の約20秒後にゴールしましたが、当初、ラジオの実況では神電・貳が優勝であると伝えられました。しかし、それは間違であると直ぐに訂正され、チーム全員ショックでした! やがて、結果が伝えられ、わずか1.6秒差の僅差で2年連続の悔しい2位であることが確定しました。

ジョン・マクギネス選手のコメント

下りになって、ラッター選手に離された。特に最後のストレートスピードの差が気になった。マシンは問題ないが、もっとパワーが欲しい。心臓が飛び出るほど頑張って走ったけれど、本当に悔しい!

宮田明広プロジェクトリーダーのコメント

今年は優勝を目指し決勝に臨みましたが、残念ながら2位の結果となってしまいました。今年の車両は、大幅な車体の軽量化、バッテリーの大容量化、モーター出力アップを実現し、昨年以上の性能向上を図ることができました。

マン島では、マクギネス選手とともにスタッフ一同マシンの性能を出し切るべく、セッティングを詰めていき最善を尽くしました。その結果、目標であった平均車速110mphにほぼ近づけることができ、昨年に比べ1位とのタイム差を大幅に縮めることができました。しかし、目標を超えられなかったことが今回勝てなかった原因の1つであったと思います。

関係された皆様のご協力で昨年以上の車両を開発することができましたが、優勝を逃し、皆様のご期待に応えられなかったことはスタッフ一同非常に悔しく思っております。来年は絶対に優勝を狙いたいと思います。

勝間田聡エントラント代表のコメント

昨年と同じく、EV技術の習得、無限ブランドのもと クリーンエミッションテクノロジーにおける先進性と、オール自社開発による独自性を世界に向けて発信すること、そして若手エンジニアの育成を参戦目的として、今年も神電・貳を開発しTEAM 無限としてTT Zero Challengeに参戦しました。

もともとこのプロジェクトは3年計画で立案され、1年目はマン島TTレースにおいてコンペティターとしてこのレース界隈の仲間となり、まずは完走してデータを収集すること、2年目はトップチームとバトルをして表彰台に上がること、そして3年目は優勝すること、というストーリーでした。それが昨年、2位入賞と平均速度100マイル突破という予想以上の結果を達成したので、必然的に今年は「優勝が目標」ということになりました。そこで、今年我々は「優勝」を目標に、新たなEVバイク「神電・貳」を新作しました。このバイクは、殆どの部品が新設計で、①モーター&バッテリーの出力アップ、②空力効果を狙ったカウル形状、③軽量化の3つの項目を重点的に開発しました。その結果、昨年に比べ飛躍的に性能を進化させることが出来ました。

「神電・貳」は期待通りの性能を発揮し、今年のレースは決勝レースまで、ライバルチームと常に僅差のタイムで推移し、非常に良いバトルが出来ました。そして決勝レースに向け、TEAM 無限は少しでもタイムを削れるようあらゆる努力をし、全セッション、ノントラブルで全力を出し切りましたが、決勝レースでは残念ながら、ほんのわずかの1.6秒及ばず2位という結果に終わりました。結果は2位でしたが、今回得られたデータは昨年以上に有益なもので、来年こそ ぜひとも優勝を狙いたいと思います。

また、現地パドックでは、特に、やがてくるであろうEVトランスポーテ―ション時代に生きる多くのお子さんたちにTEAM 無限の活動を知って頂くことを念頭に昨年に引き続きファンサービスを行いましたが、TEAM 無限のファンになって頂くことができ、大いに意義のある参戦となりました。ちなみに、子供たちに興味を持って貰うように 車体には我々が創作しました電気の神様「神電」の顔や、電気を持った赤い腕 のキャラクターをデザインしてあります。

最後に、2位獲得と、無事にレースを終えることができましたのは、ジョン・マクギネス選手をはじめ、スポンサーの方々、サポートをして頂きました多くの皆様のお陰です。
心より感謝申し上げます。大変ありがとうございました。

Pos. No. Rider Machine/Entrant Time Speed
1 1 Michael Rutter 2013 MotoCzysz E1PC/ 20:38.461 109.675
2 3 John McGuinness 2013 Shinden Ni/Mugen 20:40.133 109.527
3 10 Robert Barber RW-2/Ohio State University 25:02.467 90.403
4 4 George Spence Kingston 2012/Kingston University 25:41.822 88.096
5 7 Chris Mcgahan 2013 Yamaha R6E/Vercarmoto 26:59.755 83.857
6 5 Ian Lougher 2013 KOMATTI MIRAI KMI/ 27:46.300 81.515
7 6 David Madsen-Mygdal Imperial/ 31:26.933 71.983
8 9 Paul Owen 2013 Brunel BX/Brunel University 31:33.387 71.738



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